春の夜風みたいなドラマだった。
寒くはない。でもまだちょっと肌寒い。マフラーを外すかどうか迷うくらいの、あの微妙な季節。『バッドチョイス・グッドラブ』を全話見終えたとき、まさにそういう温度感が胸に残った。下北沢の霧の中に飛び込んで、過去の恋と向き合い直す。設定だけ聞くと大げさだが、実際に流れてくるのは驚くほど静かで、やさしくて、ちょっとだけ痛い物語だった。
凸凹のふたり
化粧品会社の広報・鴨居ひより(宮﨑優)は、かつて「恋愛マスター」と呼ばれるほど恋に積極的だった女性。だが大学時代に付き合った”サブカルクソ男”こと須藤鯨(山下幸輝)との最悪な別れ方がトラウマになり、24歳の今も恋に臆病なまま。ある霧の深い夜、下北沢で4年前の大学2年生にタイムスリップしてしまう。
目の前にいたのは、あの日と同じようにギターを弾く20歳の鯨。「今度は絶対に付き合わない」——そう心に誓ったひよりだが、1回目の人生では見えなかった鯨の優しさに気づいてしまい、心が揺れ始める。
この設定の面白さは、ひよりが「未来を知っている側」であること。観ている側は彼女のドッキリ仕掛け人的な視点を共有しながら、鯨の無防備な優しさにじわじわやられていく。タイムスリップものでありながら派手なSFギミックはほぼなく、軸はあくまで「もう一度、同じ人を好きになってしまう」という純度の高いラブコメだ。
3話という「潔さ」
横型ドラマは全3話。短い。だがこれが絶妙だった。ダラダラ引き伸ばさず、ひよりの葛藤→鯨の告白→二度目の選択、という核だけを丁寧に描き切っている。加えて、TikTokなどSNSで公開される縦型ショートドラマ(全8話)が鯨視点のサイドストーリーになっていて、横型だけでは分からない鯨の秘密が紐解かれる仕組み。片方だけ見ても楽しめるが、両方見ると物語の奥行きが一段変わる。この「縦横ハイブリッド」という実験的フォーマット自体が、ABEMAとショードラの共同企画ならではの面白さだ。
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ひよりが霧の中に飛び込んだように、このドラマも「とりあえず1話見てみる」のが一番早い。全話ABEMAで無料配信中、しかも3話で完結する。通勤の往復で見終わる長さだ。
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宮﨑優の「ナチュラルなぶっ飛び方」
主演の宮﨑優はNetflix『グラスハート』で注目を集め、本作がドラマ初主演。ひよりというキャラクターはいきなり怒り出したり感情が爆発したりと、下手をすると「面倒な女」に見えかねない難しい役だ。宮﨑はそこを「憎めない可愛さ」に着地させている。タイムスリップの事実を隠しながら鯨を避けようとする表情の細やかさ、でもふとした瞬間に本音が漏れてしまう不器用さ。彼女自身が「ドッキリを仕掛ける側みたいで楽しかった」と語る通り、演じること自体を楽しんでいるのが画面越しに伝わってくる。
対する山下幸輝の鯨は、飲み会でアルハラする先輩を横目に虫をそっと外に逃がしに行くような男。「ふにゃっと笑う」と台本に書かれた笑顔をそのまま体現していて、宮﨑が「あの笑顔に注目してほしい」と太鼓判を押すのも分かる。WILD BLUEのリーダーとしてアーティスト活動も行う山下は、ギターを弾くシーンでの「音楽に没頭している目」が素のそれと重なり、リアリティを生んでいた。
このドラマが合う人、合わない人
恋愛ドラマ好きなら——王道のタイムスリップ×ラブコメ。下北沢の空気感込みで楽しめる。宮﨑優と山下幸輝のケミストリーは初共演とは思えないほど自然体で、「凸凹カップル」好きにはたまらない。全話無料・3話完結なので時間の心配もいらない。
サスペンスや重厚な社会派を求める人には——正直、物足りないだろう。世界の命運がかかるわけでも、伏線が10層に張り巡らされているわけでもない。あくまで等身大の恋愛の話だ。タイムスリップの理由も深掘りされず、ファンタジー設定に論理性を求めるタイプにはモヤモヤが残る。
ショートドラマ文化に馴染みがある人なら——縦横ハイブリッドという新しい試みが刺さるはず。縦型で鯨の内面を知ってから横型を見直すと、同じシーンが全く違う意味を帯びる。この二重構造は今後のドラマの可能性を感じさせる。
恋愛ものに「新しさ」を求める人には——設定こそタイムスリップだが、展開はわりとオーソドックス。「二度目の人生でも結局同じ人を好きになる」というオチは予想の範囲内で、意外性を期待すると肩透かしかもしれない。ただ、そこに至るまでの感情の揺れ方が丁寧なので、結末を知っていても見ていられる作品ではある。
霧が晴れたあとに
最終話、ひよりがようやく自分の気持ちに気づいて鯨のもとへ走り出した瞬間、深い霧が包み込み、24歳の現代に引き戻される。その霧が晴れたとき、彼女の目に映ったものは何だったのか——。
「あの頃に戻ってやり直したい」という気持ちは、おそらく誰の心にもある。でもこのドラマが最終的に言っているのは、過去を変えることではなく、過去を受け入れて今の自分を肯定すること。下北沢の霧がひよりに見せたのは、別の未来ではなく、あの頃の自分がちゃんと恋をしていたという事実だった。









